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肩関節の痛みの原因

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クリニックで働いていると肩関節周囲炎や腱板損傷など、肩に痛みを抱える患者さんのリハビリを行う機会が多くあります。

 

 

そこで今回は、肩の痛みの原因について説明していきたいと思います。

 

 

 

 

 

肩上方の痛みについて

  1. 肩甲上腕関節の不安定性
    肩甲上腕関節の不安定性が存在する場合、静的安定化機構(靭帯や関節包)の機能が低下します。静的安定化機構の低下を動的安定化機構(回旋筋腱板やIST muscles)によって代償しようとするため、棘上筋、棘下筋の筋活動が高まります。
    不安定性が強い例では、挙上位での安定性が低下するため、正常な関節運動が描けず、関節内インピンジメントが生じることもあります。

  2. 腱板構成筋の筋力低下
    棘上筋、棘下筋自体に損傷や機能低下がある場合は、腱板構成筋の筋力が低下し、特に肩関節外転、外旋の出力低下が起こります。

  3. 肩甲胸郭関節の安定性低下
    棘上筋、棘下筋の筋力が低下していないのに、健康骨を胸郭に引き付けることができない場合にも肩関節の筋力は低下します。その場合、胸郭上に位置する肩甲骨を安定させる筋群であるIST muscles(肩甲骨周囲筋)の筋力低下を疑います。

  4. 肩甲上腕関節の上方軟部組織の拘縮
    肩甲上腕関節の上方軟部組織の拘縮が生じると上腕骨頭の上方変位が起こり、肩峰下インピンジメントが生じます。また、肩関節の内転制限が著明となり、夜間痛を引き起こしたりします。

 

 

肩前上方の痛みについて

  1. 腱板構成筋の機能障害
    上腕骨頭が臼蓋に対して外旋運動を行うとき、肩関節前面には伸張ストレスがかかります。上腕骨頭の外旋運動が制限されている場合や肩関節前面の軟部組織の伸張性が低下している場合、肩関節前面への伸張ストレスが増大します。
    肩甲下筋の拘縮は肩関節の外転・外旋運動を制限するため、肩前面への伸張ストレスが増大し、疼痛を誘発します。また、腱板疎部*1の損傷、炎症は肩関節前面の伸張性を低下させ、疼痛の原因となります。

  2. 上腕骨頭と関節窩の位置関係
    肩関節前方部分に伸張刺激が加わると痛みを誘発する原因は前述しました。その現象が起こる原因は、前方の筋をはじめとした軟部組織の硬度が上昇した場合と、前方への過剰な滑りが生じた場合です。
    肩関節前面の軟部組織が短縮すると、上腕骨頭を前方に前方に引き、前方変位が出現します。また、前方の軟部組織の伸張性が高い状態で後方の軟部組織の短縮が生じると、後方の軟部組織が骨頭を前方に押し出してしまいます。

  3. 肩関節後方軟部組織の拘縮
    肩甲上腕関節の下方関節包の拘縮は、挙上時の上腕骨頭の後方への滑りを抑制するため、屈曲挙上動作を制限します。また、後方関節包の拘縮は上腕骨の前方への転がりを抑制するため、内旋運動が著明に制限されます。

 

 

肩外側の痛みについて

  1. 腱板構成筋の筋力低下
    三角筋は腱板と共同に作用することで肩関節の運動を生み出しているため、腱板断裂や腱板損傷などにて腱板の機能不全が生じると、三角筋の努力性による代償運動が出現します。この代償運動が繰り返し行われることで三角筋にスパズムが生じ、三角筋への伸張ストレスが増強します。

  2. 肩甲胸郭関節の安定性低下
    肩甲骨を固定する僧帽筋や菱形筋の筋力低下は、肩甲骨の安定性が低下するため、相対的に三角筋への負荷を強めてしまいます。三角筋の過剰努力によってスパズムが起き、三角筋の伸張性が低下することで運動時に伸張ストレスや三角筋滑液包への摩擦ストレスを増大させ、痛みを誘発します。

  3. 肩関節伸展筋群の筋力低下
    肩関節後面には四辺形間隙(QLS)という場所が存在する。上腕骨外科頚の内側、上腕三頭筋の外側縁、小円筋の下縁、大円筋の上縁で形成され、この間隙を腋窩神経が通過しています。圧縮ストレスによって疼痛が生じている場合、QLSにおける疼痛の機能障害を疑います。
    肩関節伸展筋および、外旋筋は投球動作において、follow through期*2で生じる肩関節水平内転に対してブレーキをかけます。そのため、反復した投球動作により伸展筋群、外旋筋群には過度なストレスがかかります。これらの筋の筋力低下は筋スパズムを引き起こし、伸張性低下を招きます。そのため、QLSが機能的狭小化により疼痛が生じます。

  4. 前方関節包の伸張性低下
    肩関節周囲炎などの有痛性肩関節疾患においては、運動時痛の出現を避けるように、肩関節周囲の筋が防御性収縮し、可動性を犠牲にしていることがみられます。特に小円筋大円筋は肩関節下垂位で短縮するため、伸張性が低下することになります。その結果として、QLSの機能的狭小化を招くのです。

 

 

肩後方の痛み

  1. 上腕三頭筋の伸張性低下
    上腕三頭筋の伸張性が低下すると肩および肘関節屈曲可動域が制限されます。投球動作ではfollow through期に上腕三頭筋腱に過負荷がかかることで、疼痛が引き起こされます。

  2. 肩関節後方軟部組織の拘縮
    肩関節後方関節包の拘縮は、可動域制限を引き起こすだけでなく肩関節のインピンジメントを誘発する因子になるとされています。また、棘下筋や小円筋の伸張性が低下することで、腱板付着部の伸張ストレスが増大すると腱板の炎症や損傷、瘢痕化を生じ、その内側に位置する後方関節包にも波及すると後方構成体の伸張性はさらに低下します。

  3. 腱板構成筋の筋力低下
    腱板構成筋のうち、特に肩関節外旋筋は上腕三頭筋長頭とともに投球動作のfollow through期でブレーキ作用を有します。腱板筋の筋力低下は上腕三頭筋への負荷を代償的に強めます。また、acceleration期*3では、肩関節は最大外旋位となり、follof through期にて水平内転・内旋運動を伴います。腱板自体の筋力低下があると、acceleration期における広背筋を含めたアウターマッスルの活動を高めることで広背筋のスパズムを招き、広背筋の伸張ストレスと摩擦ストレスを増大させてしまいます。

  4. 広背筋の筋力低下
    広背筋の筋力低下が存在すると、投球動作の負荷が広背筋に対する過負荷となり、広背筋自体にスパズムを生じさせることがあります。このような場合、広背筋の伸張性の低下により、肩関節の外転・外旋、肩甲骨外転運動で過度な伸張ストレスを受けます。

  5. 肩甲胸郭関節の安定性低下
    広背筋の損傷をきたしている場合の多くは、僧帽筋中部・下部の筋力低下を伴っていることが多いです。僧帽筋中部・下部の筋力が低下することで前鋸筋とのforce couple機構*4が破綻し、過剰な肩甲骨の外転や早期での上方回旋が生じ、広背筋上方線維への摩擦ストレスを増大させます。

  6. 体幹の安定化機構の低下
    脊柱起立筋や多裂筋などの筋力が低下すると体幹の安定性が低下し、代償的に広背筋の過活動を促します。その結果、伸張性が低下すると、広背筋への伸張ストレスが増大し、疼痛が発生します。

 

 

まとめ

以上、肩関節の痛みの原因について説明しました。肩関節は人体の中で最も可動範囲が広く、不安定な関節になります。そのため、色々な要素を考慮して仮説を立てて、治療していく必要があります。

 

読んでいただいてお気づきかと思いますが、痛みは結果として起きていて、その原因となる場所は違うところに存在する...なんてことはよくあります。

 

私もよりよい治療を提供できるように勉強していきたいと思います。

 

 

 

 

参考文献

工藤慎太郎:運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略.医学書院:pp8~69,2017

 

 

*1:肩関節は前方を肩甲下筋、上方を棘上筋、後方を棘下筋、後下方を小円筋で覆われていますが、前上方部分は腱板に覆われていません。この部分を腱板疎部といいます。

*2:投球動作の最終姿勢

*3:ボールをリリースする相

*4:2つ以上の筋が別の機能を発揮しながら1つの運動を遂行すること